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2016年03月22日

吉村萬壱さん『臣女』(おみおんな)が第22回島清恋愛文学賞を受賞!

芥川賞作家・吉村萬壱さんの小説『臣女』が、第22回島清恋愛文学賞の受賞作に選出されました。男性作家における同賞の受賞は、2006年の石田衣良さん(『眠れぬ真珠』)以来10年振り。贈呈式は3月5日、金沢市のしいのき迎賓館にて行われ、小池真理子選考委員による選考経過の報告、吉村萬壱さんによる受賞スピーチのほか、おふたりのトークショー、学生との交流会など充実の一日となりました。

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島田清次郎の出身地である石川県白山市の名産、
美川刺繡でつくられた美しい賞状

満票での受賞 賞そのものに新風吹き込む傑作
 選考委員の小池真理子さんは、選考の過程について「少なからぬ文学賞の選考に携わってきたが満票での受賞は極めて珍しいこと」とはじめに述べ、選考委員全員が「これまでの島清恋愛文学賞のイメージを大きく覆す、新たな風を吹き込む作品」と高評価だったことを報告した。さらに、「人と人との距離が遠くなり、恋愛がどこか愚直な行為のように思われがちな昨今、多くの作家が閉塞感や空虚感といった大きな壁を打破しようと悩み苦しんでいる。そんななか、吉村さんはその壁の前に原始的な爆弾を仕掛けて、いっぺんで壁を吹き飛ばしてくれたよう」、「異形化する妻は人間が生命体であるという原始的な事実を明かすような存在。彼女を粛々と介護する夫の日常、そのシンプルさこそが深い感動を呼び起こす」と、島尾敏雄の『死の棘』などを挙げながら、作品について語った。
 スピーチの締めくくりには、2000年から務めてきた選考委員を今回で辞すことを発表し、「最後の最後にこのような作品に出会えて、いまこうして壇上でお話しすることができてとても幸せです。本当におめでとうございます」とあらためて祝福の言葉を贈った。

おみおんな2
トークショーでは選考委員と受賞者という立場を離れ、
小池真理子さんと吉村萬壱さんが作家同士としてさまざまな話題について語りあった。

愛する人を失う怖さ ホラーの先に見えた純愛
「恋愛小説家の吉村萬壱です」と口火を切り笑いをとった吉村さん。デビュー以来、小説を書くときは常に「宇宙人が地球を見ている視点」を意識しており、「人間の生理的な側面や残酷な面も生命体の有り様」としてありのままに捉えているという。今作は、「はじめはホラー小説を書こうと思ってはじめた。本当に怖いこととはなんだろうと考え、夫婦間で浮気がばれること、相手が認知症などで変容していき介護せざるを得なくなること、この二つを恐怖の軸として書いていったら、だんだんと夫婦愛における純愛の部分に触れざるを得なくなっていった」。
 恋愛小説を書いたという意識はなく、思いがけない嬉しい受賞だったが、「人を愛するということは、その人を失うときの辛さや悲しみも一緒に引き受けるということ。恋愛文学賞受賞の報を受けて、愛する人を失う怖さこそ最終的に描くことができた本当の恐怖だったのかもしれない、と考え始めた」と心境を語った。
「ぼくの作品には過激な描写も多い。芥川賞以後もう賞はないだろうと思っていたところにおもいがけない恋愛文学賞の受賞で、ほんとうに嬉しい」と喜びを語った。

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学生たちに創作や読書についてアドバイスを送る吉村さん

 記者会見で「変容する」というテーマについて問われた吉村さんは「人間の一生は変化の過程。異形化を描くことが人そのものを描くことに通じると思う」と答えた。
また、今回の選考に携わった金沢学院大学の学生含め、小説家を志す若者へメッセージをとのリクエストには、「ぼくは40歳でのデビュー。遅咲きだが、社会経験や読書量を考えるとちょうどいい年齢だったと思う。だから40歳までは諦めずに書き続けてもいいんじゃないか」と答えた。

島清恋愛文学賞とは?
石川県美川町出身の作家・島田清次郎にちなんで創設された、すぐれた恋愛小説に与えられる賞。金沢学院大学の教職員・学生らが候補を挙げ、選考委員の小池真理子、藤田宜永、村山由佳、秋山稔(金沢学院大学長・泉鏡花記念館長)の四氏によって受賞作が決定された。

臣女
夫の浮気を知った妻は、ある日を境に身体が巨大化していく。
絶望感と罪悪感に苛まれながら、夫は異形のものと化していく妻を世間の目から隠して懸命に介護する。しかし、大量の食料を必要とし、大量の排泄を続ける妻の存在はいつしか隠しきれなくなり、極限の日々で夫はある決断を迫られることに——。

おみおんな4改
978-4-19-863889-4
四六判ハードカバー
定価:本体1700円+税