子どもの本だより 著者インタビュー

子どもの本だより 著者インタビュー

2017年09月29日

9・10月号 戸谷陽子さんのまき

著者と話そう 戸谷(と たに)陽子(よう こ) さんのまき

 今回は、絵本『ウサギのすあなにいるのはだあれ?』(十月刊)の訳者、戸谷陽子さんにお話を(うかが)いました。

Q 現在、お茶の水女子大学で英米文学などを教えておられるかたわら、翻訳のお仕事もなさっているのですね。子どものころのことや、好きだった本のことをお聞かせください。

A 埼玉県で育ちました。幼少期から本が好きで、毎月、姉と私のために本屋さんから本を届けてもらっていました。姉のために届いた「ナルニア国ものがたり」シリーズに、小学一年生の時にすっかり夢中になりました。同じころ、母が近所に「瀬田文庫」というのがあると聞いてきて、連れて行ってくれました。ここは、まさに「ナルニア国」を訳した児童文学者の瀬田貞二先生が、ご自宅で開いていた家庭文庫です。たくさんの子どもたちが通っていて、私も気に入って、大学一年まで通っていました。

Q ずいぶん長く文庫に通われたのですね。瀬田先生との関わりのなかで、印象に残っていることは?

A 十一歳の誕生日の前のことですが、親に好きな本を買ってあげるといわれ、なににしようか迷って、瀬田先生に電話をかけて相談したことがあります。先生は私の本の好みをよく知っいらして「あれはどうかな?」と提案してくださいました。「もう、読んだ」なんて生意気に答えたりして、何度かやりとりをするうちに『トムは真夜中の庭で』と『たのしい川べ』に決まったことを覚えています。

 中高時代はテニスに熱中していたのですが、相変わらず児童文学も読み続け、瀬田文庫にも月に一度は通っていました。たいてい部活のあとにいくので、文庫の終わる時間に近かったと思うのですけど、先生や文庫のスタッフの方々と一緒に、奥のお部屋でお茶をいただくこともありました。瀬田先生が甘い物をお好きだったから、お宅にはいつも珍しいお菓子があって、それを先生方と一緒にいただくというのは、ちょっと大人の扱いをしてくださっているようで、うれしかったですねえ。

Q その後の進路は?

A とにかく外国の児童文学がとても好きだったので、自然と「原書を読みたい」「翻訳をしたい」と思うようになり、大学は英米文学科へ進みました。

 同時に、東京こども図書館の分館だった土屋文庫で、五年ほど文庫のスタッフとして活動に関わることになりました。また、早稲田大学の児童文学研究会に入り、そこではファンタジーを研究するグループに入りました。のちに児童文学作家となった荻原規子さんとも、この時に出会っています。荻原さんも私も、読んでいた本や読書体験が似ていたので、意気投合したんですね。

 一方で、大学時代から熱中したのは演劇です。当時は、小劇場やアングラの劇団がさかんに活動していたので、芝居はほんとによく観ていました。卒論のテーマは、英国の児童文学作家のルーマー・ゴッデンを取り上げました。

 その後、大学院へ進み、児童文学でなく、演劇を研究テーマにしました。在学中に米国のコロンビア大学大学院へ留学しましたが、修了要件にインターンシップというのがあり、私は劇場の仕事、「ドラマトゥルク(演劇作品の制作・上演に際し、演出や劇作家に作劇上のアドバイスを行う職業)」について学びました。ひとつの劇場の経営から興行までその全般に携わり、また歌舞伎や日本の劇団をアメリカに呼んだりすることもありました。そうして四年間、ニューヨークの演劇の世界で、実践を通して学びました。

Q アメリカはいかがでしたか?

A アメリカの女性が、男性の補佐的な位置でなく、男性と対等に自分を主張している姿が新鮮でした。当時の日本では、まだあまりそういう雰囲気はなかったですから。女子校育ちの私には、その文化がなんだか自由で心地よかった。二十代後半をアメリカでけんめいに過ごしたわけですが、驚きがたくさんあり、貴重な日々でした。

Q 帰国されたあとは…?

A 帰国後は、演劇関係の仕事も少ししましたが、大学で教える道へ進みました。大学では、英語や英米文学を教えてきました。研究分野は演劇で、アメリカの前衛舞台芸術や文化政策、パフォーマンスの研究をしています。

Q 児童書を翻訳されたきっかけは?

A 先ほどお話しした早大児童文学研究会で知り合った人が、のちに児童書の編集者となり、声をかけてもらいました。これまで何冊かやらせていただきましたが、とっても楽しんでいます。

Q 今回の絵本『ウサギのすあなにいるのはだあれ?』は、いかがでしたか?

A これは、ごく小さい子ども向けのお話です。登場人物が次々に増えていって、みんながだまされる、という展開ですが、だまされたとわかっても、だあれも怒らない。みんなで笑うんです。登場人物たちの間に、安定した関係があるのです。そこがとてもいいなあと思いました。

Q 児童書は戸谷さんにとって、どんな存在ですか? また今後のご予定をお聞かせください。

A 児童書は、もともとは親がきっかけを与えてくれたものでした。『ぞうのババール』『黒ネコの王子カーボネル』『魔女ジェニファとわたし』「やかまし村の子どもたち」「ナルニア国ものがたり」「グリーン・ノウ物語」のシリーズ…そのほか十代までに読んだたくさんの児童書は、大人になってもずっと好きで、今でもいつもそばにある感じがします。そういう意味で、自分のベースになっています。

 演劇の方は、自分で見つけて夢中になったもの。でも、どうしてこんなに好きなのかはよくわからないんですよ。今は、前衛の人形劇にとても関心があり、それをテーマに研究しているところです。アメリカにおける人形劇やパフォーマンスについて、あと数年研究を続けたいと思っています。

 ありがとうございました!

 

戸谷陽子(とたに ようこ) 一九五九年生まれ。日本女子大学大学院博士課程満期退学。米国コロンビア大学大学院修士課程修了。現在、お茶の水女子大学教授。専門はアメリカ演劇。児童書の訳書に『ねずみにそだてられたこねこ』(徳間書店)ほか。