子どもの本だより 著者インタビュー

子どもの本だより 著者インタビュー

2017年05月11日

5・6月号 蜂飼耳さんのまき

 英国で人気の絵本作家、アリソン・ジェイの絵本『みつばちさんと花のたね』(六月刊)、『すてきなどうぶつえん(仮)』(七月刊)。もともと文字のなかったこの二冊の絵本に、著者の許諾を得て文章をつけてくださった、詩人・小説家の蜂飼耳さんに、お話をうかがいました。

Q 詩人としてだけでなく、小説や翻訳、エッセイなど、幅広くご活躍の蜂飼さんですが、どのような子ども時代を過ごされたのですか?

A 絵を描くことが好きな子どもでした。絵日記をつけるようになったのも、最初は言葉を書くことへの興味よりも、その日あったことを絵に描きたくて始めた記憶があります。絵本を読むことやおとなが読み聞かせてくれるお話を聞くことなども大好きでしたね。

 私が育った神奈川県の町は当時、まだわりと自然が残っていて、家のそばにたぬきがすんでいる森などもあったので、とにかく森で過ごすことの多い子ども時代でした。森といっても、子どもたちの間では「山」と呼んでいて「山行こうよ」「山に行ってくるね」といった感じで、近所の子たちと身近な自然の中に入って遊ぶ時間が多かったです。

 おとなになるにつれてだんだんと気づいたことなのですが、森で遊んでいるときに、たとえばグリム童話に登場する森を思い描いたり、また逆に、本を読んでいて森が出てくると、それをふだん自分が遊んでいる場所と重ねて想像したりしていたんですね。子どもの頭の中ではそれらはあまりにも自然に(つな)がっていたので、当時は意識していませんでした。おとなになって、日々の遊び場としての実在の森からだんだん遠ざかるにつれて、かえってその想像の連結のようなものが見えてきた時期がありました。

Q そうしたなかで、「詩」を意識されるようになったのは、いつごろなのですか?

A 詩という表現方法があることには、子ども向けのアンソロジーなどもありますし、ごく小さいころから気づいていたと思います。どんなジャンルの本でも、とにかく「読む」のが好きで、いろんなものを読んでいたので、その一環で。小学生になれば、教科書にも詩は載っているので、短めの言葉で表現されたものが詩と呼ばれているんだなと、漠然と思っていました。物語だけでなく、そんな短めの言葉の表現にも、なんとなく興味を持つ子どもでした。

 とはいえやはり、詩に関わっていきたい、できることなら詩を書いていきたい、と思った決定的な体験は、もう少し後で、高校一年生のときです。ある日、学校帰りに横浜の書店でたまたま買い求めた宮沢賢治の詩集『春と修羅(しゅ ら)』で、表題作「春と修羅」を読んだ瞬間でした。それまでに経験したことがないほどの深い衝撃でした。こんな書き方や表現の仕方も、詩には可能なんだ、そんなにも自由なんだなと思って、その後しばらくは宮沢賢治の詩ばかり読んでいました。

Q それで、大学で学ばれたのは?

A 文学部の日本文学専修というところに入り、近代文学などにももちろん触れたのですが、最終的に卒論は、『古事記』『日本書紀』『風土記』などの神話を扱いました。そして大学院でも引き続き、上代(じょう だい)の神話を専攻しました。まだひらがな・カタカナのない時代の表現なので、漢文で表記されているわけですが、たとえば『古事記』は、地の文に、万葉仮名で歌謡がはめこまれているのです。神話の表現と詩は、根っこで深い繋がりがあると感じていました。

Q そして、詩の創作も始められ、絵本の文章や翻訳の仕事と、幅広く活躍されるようになったのですね。

A じつは子どものときに、絵本を作っていた時期があったんです。半分に折った画用紙を何枚か重ねて、絵と言葉を書き、本の形にして遊んでいました。そういうことの好きな友だちもいて、文と絵を交互に担当して二人で一冊を作ることなどもしていました。将来絵本を作ることは、そのころの夢でしたね。ですから、おとなになって、絵本に関われるようになったとき、その喜びはひとしおでした。絵本の翻訳も、その延長上に生まれた仕事です。

Q 今回の『みつばちさんと花のたね』『すてきなどうぶつえん(仮)』は、アリソン・ジェイの絵本を紹介する仕事としては『くるみわりにんぎょう』の翻訳に続き、二度めです。いかがでしたか?

A 『くるみわりにんぎょう』は、原本にテキストがあるので翻訳でしたが、今回の二冊は、もともと文がついていない、絵だけで構成された絵本なんですね。アリソン・ジェイさんのご快諾により、日本版は自由に文をつけてよいことになり、この企画が実現しました。とっても面白い体験でした。『みつばちさん』では、絵が語っているストーリーを、言葉で説明してしまうだけにならないことを目指しました。

 余談ですが、以前から蜜蜂には興味がありました。蜜蜂は社会性を持った生き物です。巣の仕組みや()(かた)に興味があります。

『どうぶつえん』については、かなり悩みました。絵の細部を見れば見るほど、もう驚くほど、よく出来ています。おとなにも心からお薦めできる、大変面白い絵本です。見る箇所によって別の物語が出来てくるような、多彩で多様な魅力があるのです。言葉を書いた立場でこういうのは変ですが、言葉は気にせず、あるいは言葉は頭の片隅に置く程度にして、思いのままに絵のなかの物語を楽しんでほしい、と思います。

 今回の二冊に出会うことで、アリソンさんの絵の魅力も、以前よりいっそう感じ取れるようになりました。アリソンさんの絵には、深い優しさと独特のユーモアがありますね。大好きになりました。

Q 今後、手がけてみたいことは?

A 絵本も童話も続けて書いていきたいです。そして、子どもの読者にも詩を届けるような仕事もしていきたいです。

 ありがとうございました!

 

蜂飼耳(はちかいみみ) 一九七四年神奈川県生まれ。詩人・作家。早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。詩集に『現代詩文庫・蜂飼耳詩集』(思潮社)、『食うものは食われる夜』(思潮社・芸術選奨新人賞受賞)、『顔をあらう水』(思潮社・鮎川信夫賞受賞)などがある。絵本『うきわねこ』(絵/牧野千穂、ブロンズ新社)で産経児童出版文化賞受賞。童話に『のろのろひつじとせかせかひつじ』(絵/ミヤハラヨウコ)『クリーニングのももやまです』(絵/菊池恭子、共に理論社)、翻訳絵本に『くるみわりにんぎょう』(原作/ホフマン、絵/アリソン・ジェイ、徳間書店)『くらやみこわいよ』(作/レモニー・スニケット、絵/ジョン・クラッセン、岩崎書店)などがある。