子どもの本だより 著者インタビュー

子どもの本だより 著者インタビュー

2017年03月16日

3・4月号 西村由美さんのまき

 国際アンデルセン賞受賞作家アニー・M・G・シュミットによるおとぎ話集の第三弾『犬とおばあさんのちえくらべ 動物たちの9つのお話』(三月刊)を訳してくださった、オランダ語の翻訳者、西村由美さんにお話を(うかが)いました。

Q 西村さんにこのコーナーにご登場いただくのは二回め(※前回は二〇〇二年九・十月号)ですが、オランダ語の翻訳を始められたきっかけを、もう一度かんたんに教えていただけますか?

A 夫の転勤でオランダに住むことになり、現地で外国人むけのオランダ語の講座に通い、約二年学びました。帰国後も勉強を続け、オランダで夏休み期間に行われる外国人むけの講座などにも行くようにしていました。そして、外務省研修所などで、仕事や留学を前にした人たちに講師としてオランダ語を教えたり、辞書の製作を手伝ったりするうち、編集者とつながりができ、子どもの本の翻訳をするようになりました。

 オランダ語はドイツ語と似ているので、最初のころは、大学時代に勉強したドイツ語の基礎に、かなり助けられました。

Q オランダで学ばれて、どうでしたか?

A 現地で学ぶことの強みで、学んだら、すぐに使うことができました。勉強したら勉強しただけ、自分に返ってくるのが、おもしろかった。

 オランダという国を好きになったことも大きかったと思います。オランダ人は、あけっぴろげで飾らない人たち。どんどん話しかけてきます。見るからに外国人である私に、オランダ語で道を聞いてきたときには驚きました。引越してきたばかりの私たち外国人を、近所の人が、ほかの家族とわけへだてなく家に招いてくれたり…。自分が外国人だと意識せずに、自然体で暮らせたことが何よりも魅力でした。日本で暮らしているときよりも自然体でいられたくらい。

 それに、こちらが何か「言おう」という意思を示せば待ってくれたのも、オランダ語を使おうとする励みになりました。助け舟を出して救ってくれることはないんですけどね(笑)。

 よく「オランダの寛容の精神」と言われるとおり、まわりの人の飾らない人柄に触れ、構えずリラックスしていられたことが、オランダ語の習得を後押ししてくれたと思います。

Q 子どもの本の翻訳は、いつごろから志していらしたのですか?

A オランダにいるあいだは、漠然と考えていただけでした。授業で「私の夢」という作文の宿題が出たとき、「オランダ語の翻訳をしたい」と書いているのですが、そう書いたのは、書くことがなかったから…(笑)。でも、翻訳ができたらいいな…となんとなく思っていました。

 帰国後、仕事や留学でオランダに行く人たちに教えるなかで、言葉より何より、オランダという国やオランダ人のことをほとんど知らない人が多いことに気づかされました。子どもの本には、日常生活の描写もあるし、私が説明するより、オランダから発信される生の声=文学を紹介したい、と思うようになりました。

Q どんなふうに本を探すのですか?

A 三つのことを意識するようにしています。「オランダで本当に支持され、よく読まれている本であるか?」「『オランダ的』であるか?(率直で、飾らない、自然体のオランダの人たちがよく描かれているか?)」「私自身が、その本を日本の子どもや若い人に、ぜひ読んでほしいと思うか?」です。

 この三点から考えると、アニー・M・G・シュミットは、一番紹介したい作家でした。オランダでは「子どもの本」の作家として、とにかく最初に名前が挙がるのがシュミット。オランダには長く女王がいたのですが、シュミットは「子どもの本の女王」とか「オランダの本当の女王」と呼ばれたりもしています。

 おとぎ話集の一巻目『パン屋のこびととハリネズミ』のあとがきにも書きましたが、大人になっても、子どものころに暗誦したシュミットの詩を覚えている人が多くいます。またシュミットは、大人むけの喜劇の脚本家としても活躍した人でした。オランダの人たちと話していると、大人にとっても大きな存在であることがよくわかります。

 ですから、まず何よりもシュミットの作品を訳したい、と思いました。今回のおとぎ話集の三冊以外に、これまでに、代表作である「イップとヤネケ」のシリーズなど、七冊を訳しています。

Q 『犬とおばあさんのちえくらべ』は、おとぎ話集としては三冊目になりますが、三冊は、もとは一冊だったのですよね?

A はい。雑誌や新聞など、いろいろなところに書いたたくさんの短編のなかから、シュミット自身が選んだ作品をまとめたアンソロジーです。この本を作るとき、シュミットは高齢で、ほとんど目が見えなくなっていたので、編集者が一話ずつ読んで聞かせて、選んでもらったそうです。

 日本で出すときには、ぶあつくなりすぎないよう、テーマごとに三冊に分けました。一冊目はふしぎなお話、二冊目はお姫さまや王さまが出てくるお話、そして、今回の三冊目は、動物が登場するお話です。「おとぎ話」と言っても、ふつうのおとぎ話とはひと味ちがって、世の中に対する皮肉がこめられていたり、奇想天外な展開になったり、ちょっと変わった人(でも、そういう人、いるいる!とうなずきたくなる人)が出てきたりするのがおもしろいところ。人間をよく見ていたシュミットの良さが詰まっていると思います。

Q 今後、やってみたいことは?

A シュミットの伝記と、子どもむけの詩集を翻訳して出せたら…と思っています。

 ありがとうございました!

 

西村由美(にしむらゆみ) 福岡県生まれ。東京外国語大学英米語学科卒。一九八四~八六年にオランダに住み、帰国後、外務省研修所などで講師としてオランダ語を教える。オランダ語圏のすぐれた児童書を意欲的に日本に紹介。訳書にアニー・M・G・シュミット作「イップとヤネケ」シリーズ、『ペテフレット荘のプルック』『アーベルチェの冒険』『アーベルチェとふたりのラウラ』(以上、岩波書店)、『ネコのミヌース』(徳間書店)、トンケ・ドラフト作『王への手紙』(岩波書店)などがある。