「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」真梨幸子

『殺人鬼フジコの衝動』30万部突破記念著者 真梨幸子さんインタビュー 「とことん、幸せを追い求める女性を書きたかった」

──本が出たあと、『フジコ』を実話だと思ったお友達から心配する電話がかかってきたとか?

真梨 電話ではなくて、メールが来たんです。
「はじめ、ノンフィクションだと思いました。もしかして、これは真梨さん自身の私小説? と。なにか読んではいけいなものを読んでいる気分になって違う意味でドキドキしたんですが、最後まで読んでフィクションだと分かって、これまた違った意味で『やられたー』と思いました(笑)。でも、フィクションでよかった……」
みたいな内容だったと思います。私はこの作品で、モキュメンタリーのようなものをやりたかったので、実話だと勘違いされたのは思惑通りなのですが、しかし、私自身の話だと思われたのは、想定外でしたね。
※「モキュメンタリー」……映画やドラマの表現方法のひとつで、ドキュメンタリーにみせかけた、フィクションのこと。

──編集部にも、「あれは実話ですか?」という読者の方からのお問い合わせの電話がときどき来ます。

真梨 実は、私にもそういう経験があるんです。谷崎潤一郎の「春琴抄」を読んだときです。「春琴抄」は、まるで記録映画のナレーションのような感じではじまるんですが、それを初めて読んだ中学生の私は、「実話」だと信じてしまいました。とても短い作品で、登場人物の心情もほとんど描かれていないのですが、それがかえってリアリティがあって、しばらくは妄想に浸っていたものです(笑)。
だって、肝心なことがまったく書かれてなくて、「琴は妊娠した」と結果だけ。どうもその相手は佐助。「えーー! いったい、どうやって、あの佐助が!」と、その様子がどこかに書かれてないかと、行間を何度も何度も眺めたものです。

──ご自身のなかで、いちばん気にいっていらっしゃるシーンは?

真梨 フジコが最初の整形をしたときの、帰りのシーンです。
麻酔が残っているのか、朦朧としたフジコが、今までの犯行を反芻するのですが。
このシーンは、「夢見るシャンソン人形」を聞きながら、一気に書き上げました。

──あのシーン以後、一気にフジコの「殺人衝動」も突き抜けた印象がありますね。あの最初の整形までは、彼女は、私たちと同じような少女であったように思います。

真梨 そうですね。整形する前のフジコは、どこにでもいる普通の女性だという思いで書きました。実際、フジコの小学校時代がリアル過ぎる! という意見をよくいただきます。つまり、フジコの性格も感性も、誰もが共感するような普遍さを持っていました。そんなフジコが殺人鬼になる。いったい、どこで道を間違えたのか? もしかして自分も一歩間違えれば? というような感覚に陥っていただくのも、この作品のテーマであります。

──さきほど、お話に出た「夢見るシャンソン人形」は『殺人鬼フジコの衝動』のテーマ曲とも言える歌ですよね。この歌に対する真梨さんの思い入れなどがありましたらお聞かせください。

真梨 フランス・ギャルの顔が好きなんです! 髪形もメイクも、服も可愛い! とにかく、可愛い、可愛い! 見ているだけで、胸がギュッとします。そんなフランス・ギャルの代表曲といえば「夢見るシャンソン人形」。これを歌うギャルは、もうすばらしく可愛い! ああ、うっとり。
……ところが、その歌詞の本当の意味を知って、愕然としたわけです。そのときのショックの爪あとを、なにがなんでも残したいと思い、フジコに取り入れました。

──今後の活動予定について、教えてください。

真梨 書き下ろしを2作、進めています。難産の最中です(笑)
フジコの続きですか? 続きというのは難しいと思いますが(あれはあれで、完結してますので)、フジコ周辺の人物をフィーチャーしたアナザストーリー的なものはできそうですね。

──最後に、読んでくれた読者のみなさまにメッセージを

真梨 読み終わったあと、イヤーな気分になって落ち込んだ、という皆様。
本当に申し訳ありませんでした。
自分では、後味の悪いイヤミスを書いているつもりはこれっぽっちもないのですが、「皆様に驚いてもらおう、ドキドキしてもらおう、楽しんでもらおう」と思って書けば書くほど、バッドエンドになるという……。
フジコのような作品はネガティブ(陰)エンターテインメントというらしいのですが、なるほどな……と思いました。昨今はポジティブ(陽)なものが強調されていますが、やはり、ポジティブだけでは成り立たないのが、世の中。前向きな風潮にちょっと疲れたときは、後ろ向きな私の作品を思い出してくださいね!

(2011年12月インタビュー)