「インタビュー・イン・セル 殺人鬼フジコの真実」真梨幸子

『殺人鬼フジコの衝動』30万部突破記念著者 真梨幸子さんインタビュー 「とことん、幸せを追い求める女性を書きたかった」

怖いのに、読む手が止められない……!
書店員さんの熱い応援と読者の口コミで30万部を突破した『殺人鬼フジコの衝動』はどうやって生まれたの?
誕生秘話を、著者の真梨幸子さんにうかがいました。

──そもそもこの作品をお書きになろうと思ったきっかけは?

真梨 幸せをとことん追い求める女性を書きたいと思いました。
その方法が間違っていても、どんなに裏目に出ても、愚直なまでに欲望にまっしぐらな女性。なので、はじめは、殺人鬼を書く予定ではなかったのです(笑)

──そうすると、初期構想から脱稿までに、かなりプロットが変わったのでしょうか。

真梨 構想段階では、フジコは殺人鬼ではありませんでした。
ところが、幸せを追い求める過程で、どうしても邪魔者が入る。それを取り除こうとフジコは戦うのですが、その結果が「殺人」でした。
そうこうしているうちに、フジコったら、殺す殺す(笑)。
ここまで来たら、もう殺人鬼の話にするしかないと。で、「はしがき」が足されて、そんなこんなで「あとがき」が足されたわけです。

──そうすると、多くの読者が驚愕したあのラストページも、初期構想ではなかったのでしょうか。

真梨 少なくとも、プロットを書いている時点ではあのようなラストになるとは思いもよりませんでした(笑)。
といっても、私のプロットというのはまったくアテにならないのですが。フジコのプロットらしきものを引っ張り出してみたんですが、どうしてこれが今のフジコになったのか、まったくもって、謎です(笑)。

──なぜ、「幸せをとことん追い求める女性」を描こうと思われたのでしょう。

真梨 人生の究極の目的は、やはり「幸福」だと思うのです。なので、私の他の作品も、「幸福の探求」というのがテーマになっています。
しかし、幸福感というのは逃げ水のように掴み所がなく、上限がない。どこまでも追いかけるとかえって不幸になる。だから、人は折り合いつけることを覚えます。「まっ、仕方ないか」とか「ここで諦めよう」というのは、逃避ではなくて、生活の知恵だと思うのです。
が、中にはなかなか「折り合い」をつけることができない人たちもいる。そういう人たちは、たいがい、ハイリスクハイリターンな人生を歩みます。ハイリターンな人生を歩む成功者の物語は他に沢山あるので、私は、ハイリスクな人生を歩むハメになった女性を描きたいと思いました。

──そういえば真梨さんご自身も、本書が売れる前は、フジコも真っ青の極貧生活で、貯金があと2万円で尽きる、という状況だったとか……?

真梨 2万円どころじゃないですよ! 日によっては、残高ゼロに近いこともありました。こんなときに限って引き落としの日だったりして、それこそ、集金バックを抱えて金策に走る町工場の社長さんの気分でした。下手したら、闇金ウシジマくんの世界です(笑)。
幸い、最悪なことにはならなかったのですが、でも、今年(2011年)も去年のような状態が続いたら、ちょっとヤバかったかも。実際、この年頭、「今年、芽が出なかったら作家業をやめよう」と、初日の出を見ながら決意したものです。 

──まさにハイリスクな人生を歩んでいたわけですね。『フジコ』とは異なる結末でよかったです。ところで、『フジコ』を書くうえでもっともご苦労されたところは?

真梨 フジコの一人称が大部分をしめますので、執筆中にフジコの感情が憑依してしまって、私自身が衝動的になることが多かったですね(笑)
さすがに、殺人には走らなかったのですが、マウスは2、3個、叩き壊してしまいました。
マウスには悪いことをしたと、今は深く反省しております。

──いつもそのように、登場人物に憑依されたような感覚でお描きになるのでしょうか。

真梨 一人称のときは、たいがい、そうですね。なので、途中で、迷路に入り込み収拾がつかなくなることも。
そういうときは、がらりと気分を変えて、視点を変えます。フジコの「はしがき」「あとがき」も、実はそういう過程で、途中から付け加えました。