3万年前の航海の謎を解く

3万年前の人間の技を再現しようというとき、現代人が上から目線で臨むのは大きな間違いである。シーカヤックの専門家や、伝統的な船作りの技を持つ部族の職人などが、それぞれのプライドと誇りを背負って、かつて広大な海を越えた3万年前の天才たちに挑む。本書を読み進めるうちに、挑戦者が完全に現代人の側であることに気がつかされる。途中、研究者の方が「このプロジェクトは人間讃歌だ」とコメントをする一幕があるが、まさにその通りである。海を越えて新天地を目指す勇気、そして航行を成功させた途方もない知恵。そのすべてに驚きがある。

思った以上にディレクターの感想記になっており、5感覚に訴える系ではなかったし、もっとデータやカラー写真を挿し入れてくれれば良いのにと思うくらい無味乾燥とした随想だったので残念。有孔虫、島雲、幻覚あたりの話は、おっ！と思わせてくれた。旧石器人の視覚、聴覚などの五感に触れる話がほとんど出てこなかったが、おそらくこの五感が今の私たちには想像ができないくらい研ぎ澄まされていたんじゃないかと思う。帆を使わずに黒潮を行ったり来たりしていたのは、ほぼ確実みたいなので。旧石器人の視力の凄さや麻薬の効能には触れなかったね。